インタビュー

株式会社 東海製蝋 代表取締役 阿久澤太郎【後編】

 
 
◆ 経営をされていく中で一番意識されていること・大切にしていることは何ですか?
一番大事なのはやはり『従業員35人全員が理念通りに仕事が出来るか』ということですね。
自分の仕事に対して誇りを持つことができるかということです。ただの蝋燭ではなく、一日に何十万本も作る内の一本が『世の中を変えていく』という意識を持って仕事をしなくてはいけません。商品開発でも、販売でも、文章を書くことでも、すべてそこに繋げていかなければいけません。そうする為には、従業員1人1人が『東海製蝋で仕事をしている』ことに誇りを持つことができること。それが一番大事だと思います。
◆ 企業を経営していく中で特に印象に残っているエピソードはありますか?
『リュミエール』を発売した時のことですね。リュミエールとはフランス語で『あかり』っていう意味です。 リュミエールを作る技術は凄く特殊で、他の会社では作れない蝋燭なんです。この蝋燭を発売した時、直後からものすごく売れたんです。弊社の商品で『すぐにすごく売れる』というのは珍しいんです。なぜかというと、弊社の商品は対面販売が基本の専門店で販売されます。ただそこに商品が置いてあってもなかなか売れないんです。他社の製品と何が違うのかを説明してもらって、だんだん売れ始める。 ですから、通常なら新しい商品を創っても、商品を育てつつ4年~5年経ってようやく売れ出す…という感じなんですよ。その代わり、定着するとロングセラーになるんですけどね(笑)でも『リュミエール』は発売した年にものすごく売れたんです。
弊社の商品が特に売れるのはお盆の時期なのですが、全然商品の生産が間に合わなくて(苦笑)本当に困りました。現場を見てみると、機械で検品した後に蝋燭のお尻が欠けた物などが無いか、社員が1本1本確認していました。一日に何万本もチェックしているんですよ。そうなると出来上がってくる製品数って限られてしまうんですよね(苦笑) 生産が間に合わないとお客さんに迷惑をかけてしまう一方、コストや利益などを考えると、残業ばかりするわけにもいかない…。当時、僕はまだ経営者では無かったのですが、コストや利益、売上を至上であると考えてしまっていました。今でも、大事な事には変わりありませんが、当時はそれらを優先するあまりに、検品を担当してくれていた女性の主任さんに「検品をもっと効率よくしてくれ」と言ってしまったんです…。要するに「手を抜いてくれ」ってことですよね。

その時、彼女に泣きながら怒られて『理念が大事だとか、灯の歴史に残る製品を創るとか、蝋燭によって日本を変えていくだとかって言っているのに、検品の手を抜いて“蝋が欠けているような商品”を店頭に出してしまって、もしお客さんががっかりしてしまったらどうするんですか!』って言われました。正直、すごく堪えましたね(苦笑) それまで僕は『売上や利益や効率やコストが一番大事だ』という、すごく大きな勘違いをしていたんですよ。もちろん、大事ということに変わりはありませんが、その意識の中では【社員にも一つの意思があり、仕事に対する誇りがある】という当たり前のことをあまり考えていなかったのです。彼女に言われたことによって、ハッと目が覚める思いでした。その通りだなって気付きました。
社員はみんな、どんな単純作業であろうと『東海製蝋で、理念や目標を持って仕事をしている』ということや、仕事に対して凄く誇りを持っているということを改めて気付かされました。あの時、僕は完全に間違っていたし、理念の意味をよく理解していなかったですね。社員の方が僕よりも理解していたんです。そこからは自分も誇りを持って仕事をする仲間として仕事をしなければいけないなと思いました。

――― なかなか経営者とか上の立場の方に言うのは難しいことですよね?その中で、意見をはっきりぶつけてくれるのは有り難いですね。
社員全員に、理念が浸透しているということですよね。理念をしっかりと理解し、自立して働くということがとても重要だってことですね。
◆ 今後どのような人と共に働いていきたいですか?
理念を理解して、自分の仕事に誇りを持ち、同じ方向を向いて一緒に頑張って行ける人と働いていきたいです。人間は変わるので、最初は理念を理解できない・尊重しないという方もいるかもしれません。 ですが、最終的には『理念があって、商品があって、お客様がいる』その中で自分がした仕事をすごく誇りに思えるという方と共に働いて行きたいです。

◆ 就活中の方々に何かアドバイスがあれば教えてください。
『1回しかない自分の人生をどのように生きていきたいのか』ということをよく考えた方がいいですね。やはりよく考えるということが一番大事だと思います。 昔から先代に「よく考えなくてはダメだ」とずっと言われ続けてきました。僕自身も考えるようにトレーニングしていますけれど、やはりよく考えるってことだと思います。

――― 親だとどうしても『○○しなさい』のような命令調になってしまうことが多い中、『考えなさい』と言われると、自分の中で昇華して考えなくてはいけなくなりますね。
僕は実際は何も考えなかったですけどね(笑) 成り行きですよね(笑) 弊社に入るまでは、あまり考えながら物を決めるってことはなかったです。考えれば、僕が入社した時の社員の方が、よほどそういう癖が付いていましたね。先代とずっとやってきたからですよね。 工場の人たちに関してもやはり理念がしっかり浸透してるし、よく考える癖がついています。言い続けたりやり続けるとそういう社風になってきますから、やはり継続が大事ですね。
◆ 現在のスタッフに一言お願いします。
「新しい商品を創りながら、みんなで日本を変えて行こう」
小さな会社ですけどメーカーなので、商品創りがみんなの一つの指標になります。だからこそ、新商品を創っていかなければなりません。その新商品は他社製品との差を持った製品で、結果的に売れなきゃいけません。“誰かの役に立っている”という実感が感じられないと辛いので、その実感を持てるような確かな商品を創らなくてはいけませんし、そういうものを出し続けないと、社員も『何の為に仕事をしているのか』が分かり辛くなってしまうんです。そういう面でも新しい商品を創っていくことが、一つの大きな柱になっています。だからこそ、この言葉を贈りたいです。
――― ちなみに“リュミエール”と“星のしずく”は別の商品なのでしょうか?
実は…中身のローソクは同じものなんです(笑)
先に『星のしずく』という商品を出したのですが、それを大箱にした場合、箱を大きくして入れただけでは“つまらない”ですよね!(笑) なので大箱として商品化した際『あかりの宝石 リュミエール』という違うパッケージで別の商品にしました。 もう一つ『天使のなみだ』という商品があるのですが、こちらは四角い蝋燭で、これを作るのは非常に難しいのです。しかし、お子様やお年寄りでも持ちやすく、倒れたときに転がらない蝋燭なんです。この『天使のなみだ』もただの大箱じゃつまらないので『キューブテン』という商品にしてあります。この二つだけ同じ商品なのに、大箱と小箱という違いでは無くて、パッケージから商品名まで全く別のものにしました。やはり、物を創っている以上は創り手である我々が面白くやらないと(笑)

◆ あなたにとって『社長』とは?
『オーケストラの“コンダクター”みたいな役割』だと思いますね。オーケストラには様々な楽器があり、その楽器の引き手の個性があったりするじゃないですか。例えば社員でいうと『手作りの蝋燭を作るのが得意な社員』がいたり『大きな小売店の営業が得意な社員』がいたり『お年寄りとの接し方が上手な社員』がいたり…。

会社というのは本当に色んな個性の集まりですよね。
更に言えば、理念って譜面みたいなものなので、ただ見ただけでは理解ができないんですよ。常に咀嚼しながら、社員に伝えていかなくてはいけません。その理念という譜面に沿って、35人の社員の音を合わせていく…。正しくコンダクターみたいな役割で、それが【社長】なのかな?と思いますね。
みんなが理念をそれぞれに解釈して仕事をするのではなく、音を合わせていくように共通の解釈に近づけていく。その音がビシッと合ったときに会社として大きな力が発揮されるんじゃないかなと思います。 各々が勝手に譜面通りに弾いているだけではビシッと音は合わないです。全員が同じ音で揃うのは難しいですし、勝手にビシッと合うことなんて有り得ないと思うんですよ。でもみんながそこに向かっていくっていうことが大事なんだと思います。
――― オーケストラというお話が出ましたが、阿久澤社長は楽器などを演奏されるのですか?
何もやってないです(苦笑)聴くのは好きなので、クラッシックもジャズも聴きますよ。
当然ですが、中小企業や零細企業というのは、色んな人がいていいし、いなきゃいけない。そういう人の集まりが前提ですしね。どのような個性があろうと、みんなで一つの物を追求していかなきゃいけないと思います。
◆ 今後の夢や目標を教えてださい。
インタビューの最初からずっとお伝えしていましたが『新しい商品を創って、社員と一緒に日本中の人に使ってもらいたい』ただこれだけです。そして蝋燭を使う人がどんどん増えてほしいです。蝋燭を使う人が増えることで、幸せな家庭がどんどん増えていったらいいですね。先程もお話しましたが、ここに生まれた事って奇跡じゃないですか。自分が今生きているというのはやはり奇跡なんですよね。それに気がついたら、自分の人生も人の人生も粗末にすることはできないですよ。 だからこそ僕は一日一日を大事に生きていこう、世の中に寄与していこうと思っています。 仕事を通じて、世の中が良くなっていけばいい。そういう事が人に感謝されたりする事に繋がると思います。そのきっかけは、蝋燭を灯して、生かされていることへの感謝を実感し、生きていくことだと思いますね。

――― プライベートでは、何か夢や目標ってありますか?
スキーや山登りが好きなので、できるだけ長い間、子供と一緒にスキーがしたいですね(笑)
中学生の長女とは、今年はスキーに行けなかったので(苦笑)

…でも僕らはやはり会社が一番なんです。プライオリティが一番高いので、当然ながらこれが最優先なんですよ。 弊社では一度勤め始めると、ずっといてくれる、長く働いてくれる人ばかりなんです。定期採用は市場の規模から考えてもとてもできません。社員みんながずっと仕事に対して誇りと愛情を思ってやっていけるようにしていかないといけません。 大変なことだと思います。今は良くても、蝋燭はこれから先、大きく減少することはないかもしれませんが、人口が減少していく中で色々と形を変えていかないといけませんから。中小・零細企業の場合はいつ会社がおかしくなるかってわからないですよ。だからこそ、僕は僕の代での責任を果たさなきゃいけないなって思っています。
最後になりますが、弊社の社是は「CLIMBING?」です。社員と共に、毎日一歩一歩高みを目指して登っていければ良いと思っています。
 
阿久澤 太郎 (あくざわ たろう)
株式会社東海精蝋
代表取締役/CEO
◆ インタビュアーから ◆
インタビューにお伺いした時、エアコンから音が鳴り始め、阿久澤社長自ら直されていたのが凄く印象的でした。インタビュー中も朗らかな笑顔で対応していただき、蝋燭のお話をされている時などは本当に商品を愛しているのが伝わってきて、こちらも温かな気持ちになれました。長時間のインタビューに温かくご対応いただきまして、誠にありがとうございました。
写真担当:K.O&M.O / インタビュー担当:M.W