インタビュー

株式会社 シーエーティー 代表取締役 伊藤洋子【後編】

 
 
◆ 会社を引き継がれた時の心境を教えてください。
まさか自分が経営者になるとは思っていなかったので、その岐路に立たされた時は、凄く不安でしたね。
当時は「私は会社を背負っていけるのかな?」って思いました。 『分からないことが何か分からない』そのような心境でしたね。 でも、周りの方の協力や励ましがあったからこそ「やらなきゃいけない!」と覚悟できました。 この会社を引き継ぐことにならなかったら、また違った人生になったと思います。やはり人生ってどこで変わるかわからないですね。

◆ 経営されている中で一番意識されていること、大切にしていることは何ですか?
良い時もあれば上手くいかない時もあります。ですが、良くも悪くも落とし穴ってあると思うのです。 その落とし穴に気が付けるかどうかで人生が変わってくると思うし、経営者の私がそこに落ちてしまったら、多くの従業員の人生まで関わってくる。 そこを忘れてはならないと、いつも肝に銘じています。
あと意識しているのは『感謝の心を言葉にすること』です。 「ありがとう」という言葉を声に出すようにしています。 ただ心の中で思っているだけでは伝わりませんから、きちんと「ありがとう」という気持ちを伝えることを心がけています。
――― “感謝を言葉にする”というのは意識していても難しかったりしますよね。
家族には言えてないのかもしれません(笑) 仕事の場だったり、外に出ていたりすると“何かをしていただく事”が多くなりました。 相手の方も「ありがとう」と言われれば気持ちが良いだろうし、やはり感謝の気持ちは声に出して伝えた方が良いと思っています。

――― 会社の中でも従業員の方に「ありがとう」という事は多いですか?
社内でも意識して伝えています。事務所内では「来社される方を気持ちよく受け入れてください」という事を話します。 来客への挨拶や、帰る時に「ありがとうございました」「お疲れ様でした」と声をかけるようにと話しているので、出来ていると思います。 気持ち良く帰っていただいた方が、お互いに良い関係を作ることの第一歩に繋がると思っています。
◆ 経営していく中で印象に残っているエピソードなどあれば教えてください。
色々ある中で敢えて挙げるとするなら『社員から指摘されたこと』ですね。 詳しい内容はお伝えできませんが、以前、私が少し効率化を図ろうとした事があって…。 その時、社員に反対されたんですよ。 それで”ナゼ?“と思い、その指摘してくれた社員に聞いたのですが『効率化を求めることによって社員の能力や成長を止めてしまうことがある』という事でした。 全てに当てはまるわけではないですし、効率化を求めなくてはいけない事もありますが、その時は気付かされましたね。 その時は『自分が気付けない所を社員に言ってもらった事で、自分が間違えていたな』と思ったのです。

「私が実行していたら社員の成長を止めることになったんだな」「これをやめたことによって、伸びてきたんだな」 その時のことが強烈に記憶に残っています。正直、恥ずかしかったですね。『なぜ気づけなかったのだろう』と思いました。 「ここは効率化を図らなくたって私たちは何の苦にも思っていない」と言われた時に「ごめんなさい」って素直に思いました(苦笑)
――― 経営者の立場と従業員の立場だと見えるものも変わってくるということでしょうか。
そうですね。現場の管理職は「こういう目的を持ってやっている」でも、私はそこを「早くやりなさい」という事をやろうとしたんですよね。 実際はその“目的”というのが凄く大事な事で「あぁ、教えてもらって良かった」「私とんでもない事を言ってしまった」と反省しました。

――― 伊藤社長と従業員の方の関係性が良くわかるようなエピソードですね。
会社の為を思って言ってくれたんだと思います。 そういう事を言ってくれる従業員がいるというのは有り難いことですし、そのような環境があるって凄く大事だと思います。 どこの会社でもそうですが、やっぱり上司には言いにくいじゃないですか。 だけど、キチンと言ってくれる人がいるっていうのは、幸せかもしれませんね。
全てに当てはまるわけじゃない。効率化を求めなきゃいけない所もありますが、間違えた時に「間違えている」と指摘してくれた事はとても感謝しています。
◆ 今後、富士宮市にはどのようになっていってほしいですか?
若い世代がどんどん減っているので、戻ってきてほしいですね。 若い世代が戻ってきてくれるような街づくりをしていかなきゃならないと思います。 行政と企業、地域の方々がそれぞれ単体で考えていても何も変わらないので、それぞれが意見し一緒に考えて行けるような環境をつくっていく事も大切な事だと思います。

先日、何かの雑誌で20代~30代の人口流出の割合が出ていて、ここ7,8年で富士宮市は25%くらい減っていると書いてありました。 伊豆などは、60%~70%くらい減っているそうです。出て行った若い世代は何処か他に流れているわけですから、大変だなと感じました。逆に来る人は少ないわけですからね。 富士山という宝があるのですから、子供たちが伸び伸びと育ち学んで、工業・商業・観光・農業どの分野も盛んであってほしいと願っています。 そのために私たち企業家は、会社経営をしながら、地域のためにできる事をまとまって考えて、そのような場所を有効的に使って行動を起こしていかなければならないと感じています。
――― 富士宮は住んでみるとここから出られないくらい良い所だと思うんですけどね。
私もそう思います。そう思うので富士宮市に長く住んでいるんですけどね(笑) “ここには無い何か”を求めていく方もいるし、自立して挑戦する事は大切だと思います。
――― 社会に出てから自分で環境を作って勉強するというのも中々大変ですよね。
弊社は社員が自主的に勉強をしてくれていて、私から言うよりは「これを勉強したいです」と言ってきてくれる方が多いです。 事務所内は男女比が半分くらいなんですよ。“派遣業界”は中途採用が多いと思います。 その為、色々な経験をしてくる方が多いので、経験話などを聞くと私自身も勉強になります。

◆ 今後どのような人と共に働いていきたいですか?
『どのような人と働きたい』というか、私は『あの会社で働きたい』と思ってもらえるようになりたいですね。 弊社は従業員の年齢幅が凄く広く、10代~70代で働き方も多様化しています。 70%くらいを女性が占めています。女性は色々と役割が増えていきますよね。 家族と生活している時から、結婚をして家の事をやったり、子育てをしたり、介護など、実際に役割が増えてきて、大変だと思います。 その個々の状況に合わせて対応できるようにしています。 様々な希望もあるでしょうし、弊社から求めることもあるかもしれません。 ですから、営業担当や事務スタッフもそれなりの対応力を身に付けなくてはいけません。

◆ 就活中の方々に何かアドバイスがあれば教えてください。
私の経験談からですが『3年は頑張ってみよう』ですね。
入社してからの3年間って本当に大変なんですよ。納得いかない事もあるし、辛いこともある。 自分が一番下だったのに立場が変わって、後輩ができたりもする。 一番下にいる時はわからないことは聞けるけど、2年,3年経ってくると聞けなくなってくるし、教える立場になる。 でも、そこで自分も成長しているんですよね。その時は気付かなくても。
そんな変化にとんだ3年間なので『とにかく頑張ってもらいたいな』と思っています。 その3年間を頑張っていく中で“自分の好きな仕事”や“得意な仕事”などが見えてくると思うんです。
私が趣味の所で話した「店舗を良くするにはどうしたらいい?」と考える癖がついたのは、自分が3年間やってきた事で『あぁ、私はこういう事ができるんだ』と思ったからなんです。 そう思えた時に『この仕事を続けたいな。もうちょっと頑張ろう』と思えたんですね。
3年間の中で“好きな仕事”“得意な仕事”を自分で築いていけるかどうか。そこが大切だと思います。 だから、諦めないでもうちょっと頑張ろうっていうのが“3年間”だと思うのです。

ただ、やりたい仕事があるなら、また別の話かもしれません。就活で3年目は、まだ若い時期ですからね。 高校卒業後に入社して、働く途中でやっと二十歳超える。大学卒業後に入社すると、20代中頃のそれぞれに行動できる時期です。 やはり縁があって入社した会社ですから、3年間は頑張って頂きたいと思います。 若い世代がこれから頑張って力を発揮してもらえれば、日本の社会はもっともっと良くなると思います。 それを引き出していくのが、会社の組織だと思うんですよね。個人じゃできませんから。 3年間で見えてくることもたくさんあるだろうし、会社が可能性を引き出してくれることもあるでしょう。 当時、私も無理だと思っていたことができるようになったり、苦しい事もありましたが、仕事は楽しかったです。 とにかく『3年間頑張れるなら頑張ってもらいたい』という“エール”ですね。 そこで自分の好きな仕事や得意な仕事を見つけて、それを更にレベルアップしていけばいいと思います。
◆ あなたにとって「社長」とは?
今回の質問の中で一番悩みました。『社長ってなんだろう?』と考えましたよ。 ここでは自分が理想とする社長像をお答えさせていただきますね。
『変化する勇気を持ち、会社の伝統的な古き良き事はしっかり守っていきながら、新しい時代に応えることが出来る人』 「~が社長だ」ではなくて、自分が目指す理想・自分を奮い立たせる時に掲げる社長像が、私にとっての“社長”です。 社会情勢も変化していきます。 その反面、会社の伝統的な残したい物や言葉、精神的な気持ち。 そういう『“古き良き物”は残しておきながら、新しいことに挑戦していきたい』と思っています。 軸はブレないように、挑戦する気持ちを忘れずにいたいと思います。

――― 資格もたくさん取られているようですが
そうですね。 社内で6名がキャリアコンサルタントの資格を取得しました。 その中の2名はレベルアップのために技能士の資格に挑戦しています。 ほかにはメンタルヘルスや派遣検定を受験し合格しています。 社内で行っているキャリア教育などの分野でその資格を活かしています。 教育の内容を考え、テキストも社内で作成し、受講する側の姿勢と開催する側の思い、共に成長できる場所であるように思います。

◆ 今後の夢や目標を教えてください。
幅を広げていきたいと思っています。 幅というのは、地域を広げていくことでは無くて、内容を広げていきたいです。 詳しいことが言えなくて申し訳ないのですが、資格を取ってもらっているのもその為です。 今後のビジネスに繋げていけるような資格を取ってもらっていますし『仕事を求めてくる求職者の皆さんや地域の企業の皆さんと、サービスの範囲を広げていくことでもっと関わりを深めていきたい』『現在働いていただいている従業員の皆さんの声を、1個ずつ拾っていきながら、お互いが成長できる会社にしていきたい』というのが私の目標です。
◆ 今回のインタビューを受けてみて、何か感じたことなどあれば教えてください。
これまでの自分の人生を反省もしながら振り返ることもできましたし、会社経営に関することも、今回のインタビューの機会をいただいて話をすることにより、改めてこの地域で何か役に立てることはないだろうかと考えることもできました。

インタビューの前に、ある従業員からいただいた手紙を読み返してみました。
一度は退職されたのですが、復職された方で、復職の理由などが書いてありました。 理由として「前に勤務した時に、本当によくしてもらった」と書いてありました。 うちの会社が人と関わりをもっていく中で、真剣に取り組み続けていく部分であると思います。
あともうひとつ、先輩経営者の方からいただいた「縁を活かす」というある子供の成長の過程を描いてある実話の文章を読み返しました。 「あなたの業界には必要な事だと思う」と言われて頂きました。
縁は偶然ばかりではなく、自らの行動によって起こるもので、その縁を活かすことにより成長できる。 そんなことを改めて考えることができました。
 
伊藤 洋子 (いとう ようこ)
トータルジョブサポート
株式会社シーエーティー
代表取締役
◆ インタビュアーから ◆
『謙虚な心を持ち、人との縁を大切にする真面目で素敵な社長』という印象を受けました。 物腰穏やかな喋り方と優しい微笑みがお人柄を表す一方、苦手な分野に自ら飛び込んでいける勇気と大胆さも兼ね備えている伊藤社長の事をこのインタビューがきっかけで知ることが出来ました。 長時間のインタビューに温かくご対応いただきまして、誠にありがとうございました。
写真担当:K.O&M.O / インタビュー担当:M.W